山林
山林(神奈川県清川村)

 先週、NHKスペシャルで一昨年の台風で被害を受けた室生寺五重塔の修復作業が取り上げられていた。五重塔は林の中にあり、林に守られてたち続けてきた。けれど、今回の被害はその林の木が倒れたことが原因となった。

 番組で「千年もの間、風雪に耐えてきた五重塔がはじめて壊れた」と言う感じのナレーションがあった。これは違う。五重塔は風に倒されたのでもなければ、風で一部が吹き飛んでしまったわけでもない。風で倒れた杉の木が五重塔に向かってきて、五重塔をも壊してしまった。
 千年以上前の五重塔の設計・建築方法は、今も揺らいでいないと思う(室生寺が周囲の林に守られて生き続けていることも事実だと思う)。それに、いくら今回の台風がすごかったとは言っても、千年に一度のものでもなかったと思う。
 僕は、回りの木々が痛んでいたのだと思う。ひとつは、毎年多く訪れる参拝の人々。境内を歩くことによって少なからず木々は痛むと思う。室生寺は江戸時代から女人高野として、広く進行を集めていたという。それにしても、今の参拝客は多いはずだし、せわしないと思う。
 もう一つは、回りの都市か。番組を見た限りでは室生寺自体は山村の一角にある寺であった(僕自身言ったことがないのでどの程度かは分からないけれど)。室生寺の近辺では昔からの山村の風景は変わっていないのかも知れない。けれど、奈良市、大阪や京都などは大きく都市化して、クルマや工場からいろいろなものが排出される。こういったものが室生寺の林を悩ましているのではないか。
 そして、少しずつ痛んだ林が台風によって、どうしようもなくなってしまったのだと思う。室生寺を守ってきた林が室生寺にしっぺ返しをした形になってしまった。

 番組の後半、五重塔の檜皮葺きの屋根(檜などの木の皮を屋根に敷き詰める)を復元するとき、使われた檜皮は室生寺の境内にある檜の木から集められたという。室生寺五重塔は境内の林に助けられて命を取り戻した。


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