四万十川

四万十川
四万十川
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  先週、NHKのテレビで「四万十川の仙人」という感じの番組をやっていた。四万十川に住み続けている一人の老人の話だった。川に生かされ、川を活かす老人の生き方をかいま見られたような気がする。

 おじいさんは高知県西土佐町に住み83歳。奥さんは82歳。年金をもらいつつ、川や山から少しずつ恵みをもらって生活している。
 川や山のことは町中でこのおじいさんが一番知っていて、町の人々は「仙人」とも呼んでいるそうだ。僕も仙人と呼ばせてもらうことにする。
 川に鮎の仕掛けを作るときは仙人のいうように寸分違わぬように作る。仙人も川に入り間近で衆に指示を出す。
 自ら櫂を漕ぎ、川の様子も見て回る。NHKが取材をしていた年(おそらく昨年)は仙人も味わったことのないような年だった。渇水と豪雨が連続して訪れて、川の水温の変化により鮎が大量に死んだ。仙人はそういう川を見ることはできなかったという。命をはぐくむ四万十川ではない、四万十川には行けなかったという。鮎の禁漁目前に、四万十川は本来の大きな鮎を呼び、仙人の網を引く姿も見られた。
 仙人は山に狩にも行く。82歳のおばあさんはかなり、おじいさんが心配の様子だった。でも、仙人は山に行くことはやめようとしない。逆に足腰の弱ったおばあさんのために家から下の道までの坂に手すりをつけていた。
 仙人は猪狩りの名人でもある。猟銃を片手に山に入り、罠(わな)を仕掛ける。山の地形と、猪の動きを知り尽くした仙人の作る罠には、雨上がりの日−罠に残る人間のにおいが消えた日、見事に猪がかかっていた。
 仙人は念仏を唱えながら猪をしとめ、御神酒をかける。体の一部を山の神に供えた。猪を売ったお金で、おばあさんにあたらしい、滑りにくい靴を買っていた。

 どこまでも山に感謝して、伴侶を大切にする「仙人」。四万十川が「清流」であるゆえんは、こういう仙人が四万十川にいるからなのだとも思う。


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