読書

本

 

 僕が朝いつも乗る電車は、下り電車でかなりすいている。乗客のほとんどは座れている。座って本を読む人もいる。

 僕自身もここ1年くらい本を読む時間が減ってしまった。ほかのことを削って読む時間を確保すればいいのだけれど、ついつい他のことをしてしまう。家だと落ち着いた時間でないと本を読もうとはなかなかしない。どうしても、電車の中で本を読むことが多くなる。
 けれど、電車の中というのはいろいろな人がいるし、雑音も入ってくる。なかなか集中して読める環境ではない。特に本の読み始めに苦労する。作者の作り上げた世界に少しずつ入っていこうとするときに、邪魔をするものがあるとなかなか入っていけない。駅について扉が開く。そっちに注意が移る。いまどの駅かな、なんて確認したりしてしまう。
 そんなことをしていると、本の流れが全然頭に入っていかない。あれ? この人は何者なんだっけ? と思い始める。ひどいときには、文字を目がなぞっているだけで、内容は全く入っていないときもある。そういうときは最初から読み直すしかない。
 やっぱり、家で落ち着いた時間を確保して読むべき何だろうなぁ、と思う。
 けれど、本の世界に入り込んでおもしろくなってしまうと、周囲の環境は全く入ってこない。目が文字の流れをとらえ、途上人物の心の動きを頭が追おうとする。いいペースでページがめくられるようになる。
 降りるべき駅が近づくと、電車の動きと自分の読書のペースがつながっているような感覚にさえなる。こういうときは、扉が開くときまで本を開いている。扉が開いて、周囲の乗客が電車を降りていく流れに乗りつつ、本を閉じる。
 こんな感じで本を読めたときは少しばかりうれしい。

 本離れが叫ばれるようになってずいぶんたつ。僕も多くの本を読んでいるとはいえないと思う。でも、悲観視はしていない。電車の中を見渡すと本を読んでいる人が結構目に付く。中には、読書とはほど遠い様相をしている人が本を開いていることも多い。そういう光景を目にすると、ちょっといいなぁ、と思い、僕も本を開けたくなる。


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