日本の工業

工具
 

 先週のNHKスペシャルで「日本の物づくり」の番組をやっていて思わず見てしまった。労働力の安いアジアから、いかにして仕事を取り返すか、一人の男性を中心にした話だった。

 主人公氏の名前は忘れてしまったが、今までにいくつかの会社の製造ラインを改革してきた。始めはトヨタの生産ラインの見直しだった。氏の師匠に当たる人が中心になって、大量生産のシステムから必要な量のみ生産する体制への転換を行った。
 その意志を受けた氏がその手法を用いていくつかの企業を回る。日本を代表する音響機器メーカー、精密機器メーカーを今まで手がけてきていて、今回はとある家電メーカーだった。
 それまでは大量生産、大量在庫という考えに基づき長いベルトコンベアーの上を組み立て中の商品が流れていくという、分業方式をとっていた。しかし、この方法は、商品の多様化に適さず、新機種に対応が遅くなってしまう上、アジア各国で同じ様な組立を行っているので、安い労働力を持つアジア各国に日本が勝てるわけがない。
 そこで、今注目され始めているのが、一人で背品を組立てしまうと言う方式だ(作業台の形から「屋台方式」と呼ぶ)。大量生産の原理からすれば非効率甚だしい。一人が複雑な作業をいくつも覚えてこなすのは時間の無駄だと考えられてきた。僕もそう思っていた。
 しかし、氏はそれ以上に「一つの製品を生み出す」という人間の情熱が勝っているというのだ。実際に、携帯電話で組立の女性が屋台方式に挑戦すると一週間ほどで分業方式より短い時間で製品を作り上げるようになった。これには、はじめ懐疑的だった課長も驚いた。もちろん、僕も驚いた。
 一つ僕が思ったのは、「組立屋台」は自分の使いやすいように高さや物の置き場を組み替えていかなければ成らず、この作業は創造性を必要とすることだ。これはなかなか他にはまねできないと思う。日本のアドバンテージだ。
 最後に、親睦会の席でその組立の女性が「この工場がずっとすばらしい、もっともっといい製品を作り続けていきたい」と言っていたのが非常に印象的だった。


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