冬の朝

山の朝
山の朝
愛知県湯谷温泉

 冬、暖房のこもった、もあっとした雰囲気の家の中から、キンと空気が張りつめた屋外にでる瞬間が僕はとても好きだ。

 朝起きて、布団の中からでるときは周りは暖かい方がいい。暖かくないとなかなか布団からでられないからだ。でも、暖房で暖かくなっている部屋はどこかどんよりした雰囲気がある。ずっとそう言う部屋に居続けるのはあまり好きじゃない。ともすると、自分までどんよりとした雰囲気になってしまうからだ。
 暖房で部屋の中が不気味に暖かい朝、空気が冷たく緊張している戸外にでるのが好きだ。暖かい家から冷たい空気でが満たされている屋外にでるのは二の足を踏む。ところが、一歩外にでて冷たく澄んだ空気に当たると、緊張感のある一日の始まりを感じるのだ。夏ではなかなか味わえない、冬ならではの朝だ。
 それに、冬の空気は冷たく澄んでいる。夜露や霜が降りているので、空気中のゴミが少ない。それに、気温が低いので朝は意外と湿度も多い。冷たく、澄んで、みずみずしい空気はこの上もない贅沢だと、僕は思う。
 空気が澄んでいるから、景色がはっきり目に映る。ほど近い高層ビルや線路の電車から始まり、遠くの山並み、富士山の輪郭もきりっとたっている。電車で富士山を見ると、再び朝を意識して、その日一日がいい日になるように思う。

 旅行をして、山間の温泉に泊まる。日の出はぐっと遅い。旅館をでる頃にようやく、太陽が山の合間からでてくる。地面に集まっていた露がいっせいに、蒸発して太陽の日に照らし出される。冬の澄んだ空気と太陽の光が、日本の山間の冬の朝の雰囲気を作り出す。正直、とてつもなく寒い。その寒さは、まるで身を研いでいるような気さえしてくるほど、寒く、幻想的な感じさえしてくる。

 寒いところを歩きまわり、ようやく暖かい家にはいる。外が寒かったことを忘れさせてくれる暖かさがある。


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