ワープロ

 もう10年くらい前になってしまうのだろうか。かつて、一世を風靡した、とは言わないまでも、多くの会社などで使われていた、ワードプロセッサ。現在ではパソコンに取って代わられ、ほとんど目にすることがない。僕は、そんなワープロを愛用していた。

 今では多くの家庭で使われるようになったパソコンも、10年ほど前はとても高価だった。現在のようにインターネットが普及していたわけでもなく、パソコンは一部の人が使う物だった。パソコンよりも、ワープロの方が一般的だったし、ワープロで十分だった。
 ワープロは英語のタイプライターからの発展だと思う。英語はアルファベットの26字が基本だ。これに記号などを加えても50字くらいであればキーボードのようにまとめることができる。しかし、日本語はひらがな、カタカナ、さらに約2000字の常用漢字。キーボードのようには並びきれない。邦文タイプライターと言う物もあったらしいけれど、僕は詳しく知らない。結局日本語のタイプライターに相当する道具は、電子機器であるワープロができて、ようやく一般化した。
 僕の家は結構新しい物好きらしく、今から12年ほど前、僕が中学生の頃、家でワープロを買った。家の人が使うとき以外は、僕の良いおもちゃになった。最初は手近な活字類を自分で打ち直していた気がする。
 そのうち、それでは飽き足らなくなり、自分の文章を打つようになった。元々文章を創作して書くと言うことは嫌いではなかった。けれど、紙と鉛筆でと言うのはあまり長続きしなかった。そこに、新しいワープロという機械が登場した。ワープロを使ってみたいという興味と、文章を書きたい興味がうまくあったのだと思う。いくつか、短編小説のような物を書いたりした。ワープロは文化祭の脚本の清書やレポートなどにも活躍した。

 高校生になってしばらくすると、パソコンが導入された。ワープロのシンプルな良さもあったのだけれど、ワープロは図や表の入った文章を作る事が苦手だったためにパソコンを使うことが多くなっていった。数年前にワープロを動かそうと思ったら動かなくなっていたことに気づいた。僕の原点のひとつが壊れてしまったのは少し悲しかった。


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