大垣夜行

 その昔「大垣夜行」という夜行があった。東京から名古屋を経由し岐阜県大垣市まで運行されていた。非常に旅情を感じる夜行列車で、僕はとても好きだった。

 「その昔」と言うのはかなり大げさだし「大垣夜行」は無くなったわけでもない。7、8年ほど前のダイヤ改正で、大垣行き夜行列車はほぼ同じダイヤで快速「ムーンライトながら」大垣行きとなった。また「青春18切符」が発売される多客時は今でも臨時列車として大垣行き列車が昔と同じボロボロの電車で走っている。「ながら」がリクライニングシートなのに対し(寝台ではないのでこれでも驚きだが)、「大垣夜行」はシートが直角で狭い4人掛けのボックス席と言う代物だ(おまけにシートは簡単にはずれる)。
 僕は、先週このボロボロの「大垣夜行」に久々に乗った。「ながら」は全席指定(一部区間)の快速列車で指定券を買えば気軽に乗れる。それに対して「大垣夜行」は品川駅のホームで1時間くらいは並ばないと、ボロボロの座席にも座れないかも知れない、というなかなか恐ろしい電車なのだ。
 今回、発車の1時間40分くらい前に品川駅に着いた。京浜東北線のホームから「大垣夜行」が出発するであろうホームには既に電車を待つ大勢の人がいた。一番空いているだろう先頭に並んだ。しかしそれでも、座れるか、座れないか微妙だった。
 しかし、あれこれ考えても仕方がないので、少しはらはらしながら、並んでいる人達を見ていった。列の先頭には、おばさん二人組と高校生くらいの女性大集団(8人くらい?)がいた。後の彼女らは同一グループと分かるのだが、ともかく、おばさんと女子高校生が楽しげに話す光景はなかなか見られない。程なく首都圏JRの電車発車音楽がきこえてきた。携帯の着メロだ。高校生風の男性が(後に専門学生と判明)近くに並んでいた人に、写真を見せたり、楽しそうに電車の話をしていた。普段の日常だったらあり得ない光景だ。
 こんなあり得ない光景が「大垣夜行」では日常なのだ。電車に乗っている人全員と何となく連帯感を感じ、互いに何となく、話しても良いかな? という雰囲気があるのだ。
 僕らはこの日通路に座ることになってしまったけれど、時々眠りながらいろんな事を考えると、たまにはこういう旅行もいいな、と思えてしまうのだ。


もどる