一月ほど、八王子を離れて、神奈川県小田原市で生活をしていた。八王子駅から小田原駅までは電車で2時間ほどだし、実家の横浜までも同じくらいだ。横浜、八王子、小田原とそう離れていないけれど、それぞれ違う雰囲気を感じる。

 小田原から八王子、横浜ともそれほど遠くないので、週末は八王子や横浜に戻ることも多かったけれど、せっかく一月違う街で生活する機会が与えられたのだから、と思って小田原や箱根も少しは巡ってきた。でも、巡るまでもなく、小田原で平日を暮らし、働いているうちに、小田原の雰囲気は少しずつ感じられたように思う。
 小田原というのは、昔からの街だと思う。街の規模があまり大きくなく、街として良くまとまっているようにも思う。いうなら、アットホームな街の規模、とでも言うのだろうか。旅行に行くと、良く出会う街だ。地方の、県庁所在地までは行かないまでも、少し大きめの都市という印象がある。今年の夏の九州旅行だと、佐世保あたりを思い出させる。
 本当にアットホームな雰囲気を感じる。小田原駅は大きいけれど、その周りの駅はこじんまりしていて、良く見かける人はだいたい決まっている様な所だ。昔からやっています、と言うような店が多く、常連の客はだいたい決まっている。新しいマンションもあるけど、昔から住み続けている人も多い。悪く言えば、ちょっと閉鎖的なところがあるというのだろうか(でも、横浜のような隣は誰? と言う街と比べたときのことだけど)。
 でも、小田原と言うところは、「小田原」というひとつ独立した街の他に、東京・横浜のベットタウンとしての顔も持っているし、日本有数の温泉地、箱根の玄関としての顔も持っている。こういう新しい部分や、昔から多くの観光客を受け容れてきた部分がある。だから、僕らみたいな全然関係ないところから来た人を、近すぎず、遠すぎず、程良い距離で受け容れてくれる基盤になっているのかもしれない。
 暮らしている時も、働いているときも、暮らしにくさや、働きにくさはあまり感じる事なく一月を過ごしてしまった。
 それでも、やはり、駅から少し離れた、クルマで行くのに便利なところに大型ショッピングセンターができて、特に、小田原駅前は少しずつ寂しくなってきているという。日本中どこに行っても、同じ様に太い道沿いに大きなショッピングセンターがあることが多いけれど、子供からお年寄りまで全員がクルマを使えるわけじゃない。それに、駅前が寂しいのは、電車で駅に着いたときに悲しくなる。

 さて、一ヶ月の間に、小田原市内だけでなく、箱根も少し回ってきた。何回か行けば良かったのだろうけれど、あまり天気が思わしくなかったこともあって、一回しか行かなかった。
 今回は、箱根登山鉄道で強羅まで上り、徒歩で箱根湯本まで下ってきた。ちょっと無茶かなと思ったけど、写真を撮るのには何より、歩くのが良いし、街を知るのも歩いて回るのが一番だと思っている。
 でも、歩いている途中から天気が悪くなったり、紅葉もまだだったので、歩いたのはちょっと失敗だったかもしれない。それに、あまり寄り道もしなかったので、あまり良く街も見なかった。
 それでも、宮ノ下あたりでは、富士屋ホテルを眺めたり、寄せ木細工の店の店先をのぞきながら歩いた。宮ノ下を歩いている時、とても、ここが日本であることを意識した。富士屋ホテルは、巨大な日本建築だし、それぞれの旅館には「和」がある様に思う。宮崎駿の「千と千尋の神隠し」の湯屋はこの宮ノ下ではまだまだ現役なんだな、と思ってしまった。
 寄せ木細工を売る古めかしい店に観光客が臆することなく入っていけるのも、ここが温泉街、日本の温泉街だからなのだと思う。
 僕は、何回か箱根を訪れ、箱根の魅力は都心から近い温泉と自然だと思っていた。でも、それだけではなくて、箱根の温泉街には日本、和の空間があふれていることも大きな魅力になっているのだな、と感じだ。
 


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