芥川賞

 今年1月の芥川賞は最年少女性2名受賞で話題になった。ここのネタにもなるし読むかと思っていたが、先週、本屋に行ったらどこでも文藝春秋が売り切れで、あきらめかけていた。でも、増刷され今週手に入ったので早速読んでみた。

 受賞は金原ひとみ氏『蛇にピアス』、綿矢りさ氏『蹴りたい背中』だった。ともに(綿谷さんが半年若いが同学年)、最年少受賞となった。また、もう一人の最年少受賞の可能性があった島本理生氏の『生まれる森』も読んだ。申し訳ないけど、他の2候補はまだ読んでいない。ただ、この3作品を比べるなら、受賞した二つは妥当かな思う。
 受賞作は、今の世代の感覚がストレートに出ているし、しっかり、作品になっている。それぞれ、全く違うイメージを与える小説だが、どちらも僕ら若い世代の感覚を何とか伝えようとしている。『蛇にピアス』は割合とおじさん世代に売れているという。この主人公みたいな子供をもつおじさんが多いのかな。『蹴りたい背中』は緻密に作られていて、とても2作目とは思えない。二つの作品とも、本当にしっかり作品になっていて、僕が19、20の時に書いた文章が恥ずかしい。
 受賞を逃した島本さんの作品には、独特の世界がある。前々回の芥川賞の候補作も読んだ。ともに、この人の世界観がある。ただ、それがうまく伝わってこないのだと思う。僕が思うに、島本さんの世界観は小説で書くのはとても難しいのだ。小説というのは、一見曖昧に見えるのだけど、実は情報がひとつひとつうまく組み立てられて出来ている。島本さんの小説には決定的な部分の情報がない。僕の勝手な解釈だと、島本さんの書きたい世界はそういう決定的な部分のない世界だと思う。これを書くには相当な力がいる。が、是非とも書いてもらいたい。
 僕の読んだ3作品の中で、何か新しい可能性があるな、と感じるのは実は島本さんの作品だ。島本さんの作品は『蛇にピアス』や『蹴りたい背中』にある世界観を含んでいる。もしくは、他の作品の根幹をなす部分がある。将来、評価され直す可能性があるのも、島本さんの作品だ。
 これから、新しい世代の、新しい文学が生まれ、育っていくことが何となく見えてきたかな、と思う。


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