新緑

新緑
高尾山にて

 さくらのシーズンが終わると、新緑のシーズンがやってくる。冬枯れしていた木々に、さくらの花が咲き、そして、散る。その後、緑の若葉が勢い良く飛び出してくる。緑の若葉を見ると、いよいよ春だな、と実感する。

 毎年思うのだが(そして、毎年書いているんだけど)、若葉の力強さは僕らにも力を与えてくれるような気がする。さくらが、春が来ますよ、という合図を出してくれて、僕らは新しい季節に備える。そして、新芽が、さあ、春が来ましたよ、新しい季節ですよ、そろそろ起きましょう、と呼びかけてくれている様な感じがするのだ。
 僕の住んでいる所は恵まれていて、高尾や津久井、丹沢の山々を望むことが出来る(と思っているんだけど、実は違う山って事もあったりして)。遠く丹沢の山はその詳細を見るのは難しいけれど、高尾や津久井の山々はその新緑をよく見ることが出来る。
 先々週、良い陽気に誘われて、今年のさくらの見納めにと河口湖まで出かけた。その途中、道志みち(国道413号)という津久井のあたりから山中湖に出る道を通った。このときはもう八王子あたりのさくらは散りはじめで、若葉が芽を出し始めていた。
 津久井のあたりを走っていると、まわりの山々の木々がまさに新しい葉を出そうという瞬間で、淡い若草色に山が包まれていた。「山、萌ゆる」とはこのことか、と、すばらしい一瞬に出会えたと、心躍らせた。
 そして、山が萌えるというのは本当にごくわずかな間だけなのだな、と言うことも知った。道を進むと標高が上がり、ほんの少しの気温が下がる。ほんの少しの気温だと思うんだけど、その差で山の表情ががらりと変わった。山々の色は、淡い若草色ではなく、木の幹の薄い茶色へと変わった。季節が、若草色からちょっと逆戻りしてしまった。
 そして、この翌週、高尾山を訪れたときにはもう、淡い色から力強い色へと成長し、山は新緑の緑に包まれていた。

 植物はゆっくりゆっくり生長していくように見えるが、やっぱり季節には一番敏感だ。ぼくらに見せてくれる素敵な緑や花の色もその瞬間、瞬間で違うんだと思う。


もどる