Swimming Bullets 主宰 岩崎工(Iwasaki TAKUMI) |
70年代生まれで、ソウルミュージックやレゲエを好む女の子がいる。彼女自身のテーマは 愛 と 奔放 。
夏や海辺が好きで、オイシイ食べ物やリキュール、そしてステキなラブ・アフェアーに目がない。普通といえば普通の素朴なコ。そう聞くと出てくるサウンドも想像がつきそうなもの。が、、1998年の東京に生きる彼女が迷いこんだのは、光と影の迷宮(!?)突進むテクノロジーと出口のない終末感のプレッシャーをばく然と感じながら、生身の女の子が動物的な身のこなしで唄う。一見ストレートな性格でありながら、彼女の口から発せられる言葉は時として難解。本人自ら「活字中毒かもしれない。」というのもうなずける程の文学少女ぶり。聴き手に無理やり元気を出させる様な安易で、おせっかいな押し付けとは無縁のプライベートな歌詞。イメージの海を泳いでいるかの様な印象。決して図々しく感じられないナルシズムとその真剣さがセクシーだ。アルバムタイトルは、本人の案で、imageとoriginalを合わせた造語。偶然だがこの言葉には『成虫』という意味も存在した。今どきの若者の多くがそうである様に、むしろ成熟しきっているとは言えない、アンバランスな彼女だから、タイトルは Imaginal ? になった。 これから化ける可能性も高い、幼虫なのだから...。サウンドの細かい部分は各楽曲解説にゆずるとして、[さやか]の全曲を通しての特徴は、ありとあらゆるジャンルのエッセンスを内包している点にある。例えば、ブラック・ミュージックのしなやかでタイムの長いグルーブとクラシカルなアコースティックギターのアルペジオはどうサウンドしているのか?その上に、あいまいな音程の、ラップに近いヴォイスをのせたら...? また、ブリット・ロック風のメロディーを日本語のラブソングに置換え、しかも普通の8ビートは飽きたから、使わない......等々。ここで試されたアプローチを数えあたらキリがない。重要なのは、作り手が自らの創作活動に、退屈してしまう様なルーティーンを排除しているという点につきる。多少強引でも、新鮮な刺激を優先している、と言い換える事も出来るだろう。 |
オープニングを飾るファンキーなプログレッシブ・グルーブ。ブラックでもホワイトでもイエロー(J-POP)でさえもない。1998年版無国籍的サイバー・ジャポニズム・サウンド。60年代後半〜70年代初頭にかけてのアートロック(!?)をも連想させるややサイケデリックなカラーと幻想的な歌詞は聴き手をファンタジックな世界へ導く。言ってみれば、陽のまだ高い夕方4時頃ふと空を見上げたとき偶然、うっすらとした透き通った月を見てしまった瞬間の感覚。とでも言えばいいのか。ビートとギミックしかない単なるテクノでも、妙に聴き手にこびた心情的なポップスでもなく、もちろん、逆行的なだけのレトロサウンドでもない。アヴァンギャルド・プログレの雄、[ボンデージ・フルーツ]のリーダー鬼怒無月のギターが、ここではコケティッシュな響をそえる。新ジャンルの誕生を予感させるクールな代表曲。 |
スピード感、疾走する景色、フラッシュバック、デジャ・ビュ....。グルービーなベースと大胆かつ繊細なビート。そしてメランコリックなスパニシュギターに、さやかのVoiceが目の前10cmで囁く。黒地に赤いカオス、RED。第一期キング・クリムゾンのラストアルバムを知らない、さやかの同名タイトル詞。今回の4曲の中で唯一「詞先」で作られた。詩のイメージ膨らませたプロデューサーTAKUMIがこの時期最も旬なビートをぶつけ、新たな音宇宙を出現させた。インストゥルメンタル指向のクラバーにも支持されるかも?"ドラムとベース"だけじゃないけど.... |
一転してリラックスしたアンビエンスを感じさせる曲。鬼怒のスライド・ギターとTAKUMIのコーラスがちょっとしたユートピア的楽園情緒を醸し出す。ただし唄われているのは、恋人に対するシリアスな気持ち。その言葉は、せつなく、つき刺さって、痛い。等身大のさやかがここにいる。その言葉に耳を傾けるなら、単なるラブソングの枠を大きくはみ出している事に気づくだろうし、より深い共感を持つリスナーも多いことだろう。楽曲のモチーフとなっているのは、人類共有の財産とも言えるJ.S.Bachのクラビア(ピアノ)曲。Swimming Bullets主宰のプロデューサーTAKUMI(岩崎工)の独自の解釈で、全く別のBrit Rockが似合いそうな楽曲に仕上がっている。OasisやBlurが歌ってもおかしくない曲だ。このミニアルバムの中、最も広いユーザーの間でポピュラーになりそうな完成度を備えた名曲。 |
手塚治虫 原作の近未来アニメーションからヒントを得たファンタジー。一家に一台、家電製品としてのサイボーグを持ったようになった未来社会が舞台。必要に応じて数々の情報がインプットされていて、主人の年令に合わせて、家事、育児、教育係、恋愛の相手、果ては娘の役割までもこなせるサイボーグ・ドール。(この場合疑似女性モデル)このサイボーグをタイムマシンとして逆利用すれば、自分がタイム・スリップ出来る、という裏ワザまで用意されている。そんな奇想天外な場面設定の中で、自らの意志を持つに到ってしまったドールが、自分を無駄にしないで、正しく使って欲しいと訴える唄。むなしくも、悲しくもあり、ニヒリスティックだが、逆説的な人間賛歌にもなっている。一応の全世界共通語としての英語で歌われている。もちろんドールを演じているのは、さやか本人。曲のベースは、プロデューサーTAKUMIが90年代初頭に参加した、元祖デジタルロックユニット S.E.X(東芝EMI)の為にどうか、と暖めていた曲。2000年を目前にして、今、時代にフィットした。 |
Produced by TAKUMI Lylics written by さやか except track 4 by さやか & TAKUMI Music composed & arranged by TAKUMI Musicians : Voices : さやか El. & Aco.Guitars : Natsuki KIDO (from: BONDAGE FRUIT) Keyboards, Switches & backing chorus : TAKUMI Pre-production performed with PM CORE Recorded at Music Prosper Studio through winter '97-'98 Engineered & Mixed by TAKUMI with PM CORE |
:ginette: は、プロデューサーTAKUMI(岩崎工)が送り出すエクスペリメンタル・ポップユニットである。そのサウンドは、アンビエント・エキゾチカと表現出来るようなもので、1998年の現在に至るまでの様々なジャンルの要素が無造作に織り込まれ、新たなるスタンダードを築こうとしている様にも聴こえる。既成のジャンルに区分けしにくいのは確かだが、無理を承知で言えば、アンビエント、ポップ、そしてフィルムミュージック(サウンドトラック)の接点あたりに位置するのではないか。
今回TAKUMIがとった手法のひとつは、いわば<旅するDJ>とも言えるようなもの。自分の聴きたい音楽を作るために、おサラをSPINする替わりに、DAT とマイク片手に気ままな旅。素材をスタジオに持ち帰ってサンプラーをドライブした。ロードムービー的なプロセスで集められた素材は、ヴォーカリスト AZ のヴォイスと組み合わせられ、ちょっと非日常的な、手づくりの嗜好品に仕上がっている。時代の空気感、ニオイ、温度感、そしてロケーションを移動する事の体験、などアーティストの肌を、五感を通して感じられた世界(観)が音に表現されている。 :ginette:というユニット名は、フランス女性の名前を連想させるが、そもそも、フィーチャーリング・ヴォーカリストの AZ (梓さん)が、本業(?)のアンティークガラスのアクセサリー作品のブランド名として使っているもので、それをそのままユニット名としている。あるフランス人に印象を尋ねたところ、この名前はちょっとトラッドで、最近ではめずらしいけど、結構みんなに好かれた名前だそうだ。日本で言うと”さゆり”ってとこでしょうか(笑)。ちなみに、映画”ボルサリーノ”の中で、ベルモンドの相手役のヤクザの娘が、この名前だったらしい、が良く覚えていない。もっとも本当は、英国の小さな自動車マニファクチャーの ginetta が好きなので、これをフランス風に変化させたというのが真相のようだが..... 全曲のフランス語詞は、AZ によるものだが、彼女にとってはデビュー作でもある。 バンド活動にはじまり、アレンジャー、音楽誌ライター、インタビュアー、CM 音楽ディレクター、CM 作曲家、ボーカリスト、プロデューサーとして活動してきた経験が、 TAKUMI にとってはアンチ・ポップ的な発想を持つに至らしめたのか? 現段階で今聴きたいものは? という自問自答に対しての回答が、:ginette: というユニットとして具現化したということだろう。 |
現在最も興味があるという、ミディアムグルーブの Ethno-Techno の曲。 滞在中の Istanbul の下町で偶然出会った音源(村祭 or 何らかの祝事らしい)で始まる。ヴォコーダーで繰り返される "Won't you kiss me softly ? Will you take me to the end of this world ?" というフレーズは、ラブソングとも cosmopolitan 的な交響詩ともとれ、クールなこの曲を象徴的に表わしている。 タイトルに、レーベル名そのものが使われている事からも、この曲に対する思入れが判ろうというもの。もっとも、この曲のオリジナルなリフは、96年ハーゲンダッツアイスクリームのCMに使われていたので、どこかで聴いた様な気が....というユーザーがいても何の不思議もないのだが。 |
アルバム中最も念入りに作られた手工芸品のような一曲。 AZの仏語詩の世界は、彼女が透明なアンティークガラスを一粒ずつつないでいく行為にも似て、求道的ですらある。美しいものを、ただ純粋にそのまま素直に感動する姿勢が大切だ、と TAKUMI は考える。吟味された音素材と、ちりばめられた言葉の断片が、リスナーに対して一篇の映画を観たような感覚を与え、視覚的サウンドと評されるのも理解できるところだ。サウンド的には、いわゆるブリストル一派の作品群によって触発されたセンスでまとめられているが、TAKUMI にとっても SE を音楽に取り入れる手法は、83 年のソロデビュー当時からのスタイルであった。(蛇足ながら、このスタイルを持って CM 音楽界にもデビューしたTAKUMI は、当時の業界を席巻することになった。) 原曲は、94-96 年にかけて、サウンドプロデュースを依頼されていたNOKKOのためのプロジェクトで生まれたものである。 また、エンジニアリング面に興味のある人間にとっては、最近実用的になって来たPRO TOOLS のオートメーションやDSPを駆使した点でも、聴くべきポイントは多いかもしれない。 |
アンビエント・サウンドトラックともいうべき、SPACY でヒンヤリとした空間をイメージさせる曲だ。マニュアルでキーボード演奏された(!?) BASS LINE は、ワンテイクでMAC に録り込まれ、音形は EDIT されることはなかった。そして無機質なJAZZスタイルのセットドラム。さらに Fender ピアノに乗ったフリューゲルホルンの響は、一種のヒーリングとも聴こえるし、その不自然さ故、かえって懐かしさとか、ノスタルジーを感じるかもしれない。場面転換のたびに挿入される現実音に、ドラマというか、ストーリーの背景を感じるリスナーもいるだろう。ここでは、AZ のヴォイスも一つのデザイン上の素材として扱われている。限りなくインストルメンタルに、そして映画の背景音楽に近いサウンドだ。ちなみに、-394メートルというのは、地球上で最も海抜の低い地点 = イスラエル/ヨルダンの死海の海抜である。 |
ラストを締めるのは、一転してモンスーン気候の穏やかさを感じさせるバラード。ここでいうバラードは、当然だが 80 年代ブラックミュージックのそれではない。他の 3曲に比べれば、オーソドックスとも感じられる楽曲だが、その分ウタものとしての完成度は高い。「メロディーは、死んだ」といわれるこの世紀末近い現在の音楽界の傾向のなかで、オーディナリーな旋律も捨てたものでもないかな? と思わせる出来映えだ。コンパクトにサンプリングされたストリングス・セクションがゆっくりとフェイドアウトしていく時、沈む夕陽を惜しむ気持ち、と似た感覚を味わうことだろう。都市生活者のエスプリ(!?)とクールさを自負する:ginette:のメンバーが、実際には自然界に存在する全ての創造物に敬意を払い、かつ愛着を持っている事実がうかがえる。 曲名の"Light Of The World"は、TAKUMI が更めて再評価しているKool&The Gang のアルバムタイトルLight Of Worlds から拝借した。というより思想を継承した、というのがより事実に近いだろう。"この世に光を..." いい言葉じゃないですか..... |
Produced by TAKUMI All tracks written and performed by AZ & TAKUMI Sound resources collected through the air on each site in Middle East area (Paris-Istanbul-Anman-Death Sea-Acaba-Beirut) through Feb. - March '97 Programmed,edited & recorded at MUSIC PROSPER STUDIO through April '97 - March '98 Engineered & Mixed by TAKUMI with PM CORE |
■プロフィール |
ヴォーカリストとしてフィーチャーされているAZ、即ち 梓さん は、以前よりアンティークガラスやビーズ、メタルをマテリアルにしたアクセサリーのブランド、: ginette : を自ら手がけているハンドクラフト作家である。フランス語詞や歌うことは、あくまでも趣味の領域だったらしいが、時にはコマーシャルミュージックのための詞を書いたり歌ったりすることもある。今回請われてバンド(歌手?)デビューということになったのだが、バーバラ・ヘンドリクッス、キリ・テ・カナワといったクラシック畑の歌姫が好きで、最近の気に入り は、プーランク、R・シュトラウスという話だから、ポップスの世界から見れば、異色の存在という事になろう。音楽家として種々の活動をしてきたTAKUMI(岩崎工)が中心となって展開する、アンビエント・ポップのプロデューサーズ・ユニットにブランド名と共に参加することになった。 |